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ソウル・ミュージックの裏方たち、“ゴースト・ライター”ならぬ“ゴースト・ミュージシャン”を巡る研究本

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ブラック・ミュージックのクラシック誕生の裏に消えていった無名のアーティストたち――文章の執筆において代筆を行う“ゴースト・ライター”ならぬ、音楽制作においてクレジットされず、楽曲を生み出していった“ゴースト・ミュージシャン”にスポットあてるという、少々変わったテーマを持ったブラック・ミュージックの研究本『ゴースト・ミュージシャン ソウル黄金時代、アメリカ南部の真実』がDU BOOKSから刊行された。著者は、この国のブラック・ミュージックの紹介者として長年、音楽雑誌や書籍などで執筆を行ってきた鈴木啓志。

『R&B、ソウルの世界』(ミュージック・マガジン刊)はブルースやジャズにはじまり、R&B、ソウルやファンクへと時代とともに変遷していくブラック・ミュージック、その古典入門にはうってつけの教科書と言えるだろう(これまでに何版も表紙や増補を繰り返し改訂版が出ていることがその証拠と言えるだろう)。その著者、この国のブラック・ミュージック研究の大家のひとり、鈴木啓志の書き下ろしの新刊が出版された。その名も『ゴースト・ミュージシャン ソウル黄金時代、アメリカ南部の真実』。アメリカ南部に生まれたサザン・ソウルと呼ばれる1960年代のソウル・ミュージックの裏側に迫った研究書だ。
その話題の中心は当時の名門スタジオ、フェイム。フェイム・スタジオは、ソウル・ミュージックの女王、アレサ・フランクリンなどの作品を送り出してきた、まさに、ブラック・ミュージック・クラシック生誕の地のひとつとして歴史的なスタジオといっていいだろう。しかしながら、ここで生み出されていた曲の背後には、レコーディングに参加し、大きくその音楽性に寄与しながらも、著作権はおろかクレジットすらされずに後世にその名が残されることなくその存在が隠れてしまっているアーティストたちいる…という事実をひとつのテーマとして、このフェイム・スタジオ、そしてそこから生まれでるサザン・ソウルの知られざる歴史を詳細に解説したものだ(つい先頃、ブラーのデーモン・アルバーンがプロデュースした往年のソウル・シンガー/ギターリスト、ボビー・ウーマックもそんなゴースト・ミュージシャンのひとりであったようだ)。
“ゴースト・ミュージシャン”とは一見、トリッキーなテーマに思えるかもしれないが、その内実はスタジオのシステムや著作権の感覚、プロデューサーとアーティストの地位など、いまとはまったく違った1960年代の当時のアメリカのブラック・ミュージック・シーンの実情だったりするのではないだろうか。例えばほぼ同じ時代、国は違えど、スカを生み出したジャマイカの音楽シーンのヒストリー本でも、この手の話はよく見るエピソードだ。いまとなっては、驚きの、そういった当時の状況知るという意味でも、もちろんサザン・ソウルという音楽の成り立ちを追った研究書とも一級品。現在のR&Bやさまざまなポップ・ミュージックの基礎になっている1960年代のソウル・ミュージック、その背景や、現在と違った当時の著作権やアーティストの地位に思いを馳せながら、秋の夜長に読んでみてはいかがだろうか?(河村祐介)


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